こう-ごう【媾合】性交。交接。交合。(広辞苑第四版)
私の名前は媾合陛下。マスコミに作られたイメージ通りの私を演じるために、今日は来たくもない清水寺へ観光に来ているの。それにしても、今日の私はどうしたのかしら。遅れたメンスのせいかとっても気分がアンニュイ。
「お疲れのようですね」
「私の中には寺社仏閣めぐりなんて枯淡の心境は、少しもないのだもの。こんなのは本当の私じゃない」
「しかしそれが貴方のお仕事です、媾合陛下」
「ねえ、あなた何故私が媾合陛下と呼ばれているか知ってる?」
「いえ、先月こちらに配属された新人なものですから、存じ上げておりません」
「ふふ、それはね……しゃッ」
「ああっ、たいへんだ。媾合陛下がまるで清水の舞台からとび降りるように思い切って清水の舞台からとび降り、五メートルも落下したところで全身のたるんだ皺に風をはらませて、まるでムササビのように奈良方面へと飛び去ったぞ」
「追え、追うんだ」
「ああ、久しぶりの娑婆の空気。いいわぁ。あら、修学旅行の学生ね。こんにちは」
「あっ。媾合陛下だ」
「私のことを知っているのね」
「そんな。や、やめて下さい」
「ふふ、女に触られただけで赤くなるなんて、本当にうぶね。私がどうして媾合陛下と呼ばれているのか、教えてあげるわ。大丈夫、怖がらないで……しゃッ」
「みなさま、カリフォルニアより遠路はるばるお疲れさまです。さて、みなさまの右手に見えますのが聖徳太子ゆかりの法隆……あっ」
「オゥ、何デスカアレハ」
「マグワッテイルネマグワッテイルネ激シクマグワッテイルネ」
「みみみみなさま、左手をごらん下さい。ええと、その、鹿。そうです、愛らしい鹿の親子が」
「ガイドサン、コレドノヨウナニポンノ文化」
「おお、おお、久しく忘れていたこの匂い、この感じ。いいわぁ」
「お母さん、お母さん」
「私知ッテマス、アレニポン語デ”青姦”言イマス。古キ良キニポンノ文化」
「私モ聞イタコトアリマス、青空ノ下デ姦通スルカラ”青姦”言イマス」
「サスガカリフォルニア大学デニポン文化ヲ専攻シテイルダケノコトハアリマスネ、スティーブ」
「もういや、もういやぁ」
「中学生ニキビダラケノ顔ヲ思想的ナ真ッ赤ニ染メテイルネ」
「お母さん、お母さん」
「サスガカリフォルニア大学デ政治思想史ヲ専攻シテイルダケノコトハアルネ、ステファニー」
「衆人姦視ノ中デノマグワイガ快楽ヲイヤ増シテイルノダネ」
「サスガカリフォルニア大学デ心理学ヲ専攻シテイルダケノコトハアリマスネ、ジェイン」
「はぁ、はぁ。いました! いや、おられました!」
「ああ、たいへんだ。媾合陛下のおみ足がいたいけな中学生の腰を折れそうなほどにがっちりとホールドしているぞ」
「もういやです、私帰ります。帰るんだからぁっ」
「しまった遅かったか。(振り返り)諸君、ああなってはもう手遅れだ。お隠し申し上げろ。媾合陛下の御姿を御簾でお隠し申し上げるんだ」
「おお、おお、若い身体の精気はなんて強いのかしら。私のわがままなボディが悦びにうちふるえているわ」
「オゥ、何デスカコノ人タチ」
「コウイウノニポンゴ語デナンテ言ウカ私知ッテマス。”無粋”言イマス」
「サスガカリフォルニア大学デニポン文化ヲ専攻シテイルダケノコトハアリマスネ、スティーブ」
「国家権力ノオーボーダゾ」
「ええい、散れ、寄るなこの毛唐どもめ。貴様らの目に触れるだけで穢れだ。とっとと自分の国に帰って、前向きと無思考を取り違えることのできる単純さで、今日受けたトラウマのカウンセリングでも受けてろ。あっ。こら、御簾を乗り越えるな」
「オーボーデスオーボーデス。国家権力ノオーボーデス」
「ソウダソウダ。我々ニハ法ニ約束サレタ”知ル権利”ガアルゾ」
「サスガカリフォルニア大学デ政治学ヲ専攻シテイルダケノコトハアルネ、ステファニー」
「そうよ、この瞬間こそが飾らない本当の私。私が媾合陛下なのよ」
「ぼきり」
「ああっ、たいへんだ。媾合陛下が人間の本来にはあり得ない方向に上半身を曲げた、紙より白い顔色の男子中学生を腰にプラグインしたまま、毛唐の数人を戦車のように踏みつぶし、鹿の親子を人間の側の勝手な投影を排除したやりかたでまるでそれらが単なる畜生に過ぎないとでもいうかのように引き裂き、その先にそびえる五重塔をまるでそれが運動会の棒倒し競技用の棒に過ぎないとでもいうかのように彼女がいつもチンポにするごとくに倒壊させ、蜘蛛のように走り去って行くぞ」
「見られたか。今ここにいる毛唐どもを全員を射殺しろ。無条件発砲を許可する。そう、みんなだ。一人も生きて国外に出すな」
「ぱんぱんぱん」
「オゥノゥ、グランパガ”トムトジェリー”ノヨウニ厚サ2ミリノ紙状ニ潰サレテ遙カ上空カラヒラヒラト舞イ降リテキタ私トイウ実存ハダニエル・キイスニ原作ヲ提供デキルホドノ心ノ傷ヲ負イマシタ」
「サスガカリフォルニア大学デ心理学ヲ専攻シテイルダケノコトハアリマスネ、ジェイン」
「みんな見でえぇぇぇわだじよぉぉぉわだじが媾合陛下なのよぉぉぉ」